【盛大にネタバレしてます!!!】
初日の『忘れえぬ 忘れえぬ』の様子はこちら↓
sherry5honey7jouer.hatenablog.com
⚪︎衣装
…は13日と同じ。やっぱり家森みのある一生さん(それで沼に落ちたから好き)
酒井さんだけ髪型ちょっと違って、『初恋』 はパーマっぽい感じてゆるくウェーブかかってて、『不倫』 では後ろで編み込みシニヨンみたいにまとめてて3公演とも素敵でした。
内容については書籍化されているため割愛し、 ネタバレガンガンしていきます。
●『不帰の初恋、海老名SA』
・一生さんは『忘れえぬ 忘れえぬ』 の時は膝に肘を置いて基本右重心。年月の経過とともに本を持つ高さが少し下がっていくようでしたが 、今日は2公演とも深く座り、正面重心の場面も多かったです。(演出として姿勢を変えているかまではわからなかった)
・マイクトラブルが多く、時々ガサガサ音が入ったり一生さんの声が入らなかったりしてたけど、演者は動じず。流石。
・『忘れえぬ〜』に比べると、おそらく現代東京に生きる大人が出てくるためか、例えばショッピングセンタームラハマがどこにあったか忘れてしま った玉埜くんのくだりとか、いわゆる固有名詞を出して雑談のような話をし始めた時の一生さんの声の素の低さと響きが良すぎて、私の中の何かが飛んだ。
・後述しますが、ラストで一番最初に三崎さんが玉埜くんに宛てた手紙を探し出してきて、読み上げるシーンで私は泣いてしまいました。
教室の中で透明人間だった君を見つけてしまった彼女が最初に宛てた文章のみずみずしさ、 酒井さんの声がまた高く可愛らしく戻った瞬間、そして二人を照らす照明が下手後方から窓枠のような影越しに射していたこと、全てが静かに混ざり合っている奇跡に。
ああしておけばよかった。こうしておけばよかった。通り過ぎなければよかった。あの手を放さなければよかった。
初恋は帰らないけれど、手紙の中では戻れる。かつてお互いがその中で生きて出会っていたように。そんな今ここからありえる希望を書簡の中に感じて、いろんな気持ちが込み上げました。
●『カラシニコフ不倫海峡』
・冒頭から酒井さんの声が前2作と全然違って度肝を抜かれた…今思うと、低く、落ち着いた、様々なことを諦めては諦めて、 絶望を知っている人の声だった。
・どうしても不倫の話だし、ホテルでの逢瀬のシーンとかお互いのパートナーとのセックスはどうだったのかとか、大人な内容多めですよね。
そういうシーンで敢えて状況描写だったりその時の心情の吐露だったり、そういったものを結構淡々と台詞を紡いでいく感じが逆に現実味があったし色っぽいなと感じたのが新鮮だった。
・「ハリネズミ お風呂」で検索して「可愛かったです」 と台詞を話す一生さん、あなたが可愛かったです…
あと「ヒカリエじゃなくてカゲリエ」とか「人生は竹内まりやさんが思うよりは悪いもの」とか、 ちょっとクスッとくるところで割と客席から笑い声起きてて良い雰囲気だったな。
・「photoshop」のイントネーションは私もナゾでしたwそもそも正解がわからんのでスルーしちゃったけどやっぱり違和感あったよねイセクラさんたち…笑
「暑中見舞い」噛んでてやっちまった顔をされてたのがバッチリ見えたのがわたしはむしろ嬉しかった…
・今年に入ってから殺害現場を掃除しがちな高橋一生…笑
(気になる方Paraviで配信してるよ観てね!)
・実を言うと今回最前列センターだったんですよ…なので、一生さんが左手側のページを読んでる時に、もう少し目線が上がったら私と目が合うのではないかと思って緊張する距離感でした…
推しのことガン見はしたいけど、ご本人の視界に入るのは申し訳ないタイプのイセクラなんで…
(近すぎて毛穴とか眉毛とか気にする余裕はなかったし、そもそも物語にすぐ引き込まれていた)
・上述の通り、『忘れえぬ』の時は右手で台本支えて持っていたけど、今回は逆の手でも持ってたしすこーしだけ持ち方違ってたような。
⚪︎酒井さんについて
一応イセクラなんですけど、すみません、酒井さんが素晴らしかったのでちょっとまとめて感想書かせてください。
・初日の『忘れえぬ』の時、 一生さんと酒井さんの声の質が違うから対照的でいいな~くらいの感想しかなかったんですよ…
でも今日の2本は完全に酒井さんに持っていかれました。
・『初恋』で「好きでした」と告白する長台詞のシーン。 好きになっていく日常の過程から気持ちを伝えるところまで、どんどんグラデーションがついていくのがわかったし、私朗読劇で泣くことってあると思ってなかったです。 演者も観客も。
心の底から切実に発せられているような「好きでした」 が聴こえてきて、その時あっ酒井さん泣いているんだと思って、ハンカチで拭いながら読まれていて最初すごく驚いたんですが、私も視界が滲んで見えてきたんです。
初恋にして、きっと人生でこんなに人を好きになることはないって解ってしまった人の「好き」だな、と思って、最後までずっと胸がギュッと痛くて、
でもそれがお守りだった彼女の半生が、夜の高速道路を滑り込むバスみたいに私の中に映像として流れてきました。
・『不倫』では、 301号室で警察が来てドア直どんどんされてるシーンの長台詞が やはり壮絶なものでした。
田中さんが「逃げ続けてきた」ものへの恐怖、積み上げてきた" 普通"が壊れゆくことのいとも簡単な過程。擦れながら叫ぶような声音と表情で、彼女の諦めばかりの人生の悲痛さが迫ってきました。
ウーロン茶のおばさんに恩返しがしたくて生きてきたような感じ。 恋だけじゃなくて、人生で偶々起こった一見ささやかな出来事が、 人を生かす支えになるからこそ、 その恩返しすら叶わず最後に発せられた「お疲れ様です」 の絞り出すような声は、一生忘れられないと思いました。
言葉で上手く言えないんだけど… 酒井さんは完全に憑依するような感じがあって、今までの私が知らない心を打つ何かがありました。
・ 一生さんも今日は結構台詞噛んでるところが少々あったんですが、いつも完璧なイメージの一生さんの人間らしい面が見えた気がして逆にうれしかったし、特に田中さんの死を知って語りだす長台詞のところ、おそらく直前の酒井さんのお芝居が凄かったからそれにつられる感じがあったなと。
その死について口にする時、一寸話すことを躊躇うように、それから本を少し持ち直すような仕草を見せて、口語のようなリズムというか朗読ではなく本当にしゃべるように、揃っていないリズムで吐き出すような感じだったんですね。
私はそういう一生さんあんまり観たことがないなと思ったのでちょっと衝撃的だったし、一瞬だったけど印象に残りました。
というか、そもそもその一生さんの長台詞の間もずっと酒井さんがすすり泣く音が聴こえていたんですよ… この瞬間の舞台上の熱量が凄まじくて、ただただ凄いものを観ているとしか思えなかった… これはとんでもないものを目撃しているなって…
・全編通してお二人とも芝居が上手いのは勿論なんだけど、役者同士の相乗効果を目の前で見た感じがしました。
他のペアを知らないのでなんとも言えませんが、少なくとも『不倫』はベテランコンビとしても、年齢やご経験を鑑みてもお二人で観られて絶対に良かったと思うし、他2作も落差の凄さというか幅広い年齢・生い立ち・キャラクターを使い分ける凄みを観るのもまた面白かったです。
わたしは今年度の朗読劇からしか拝見してませんが、 なぜこの高橋一生×酒井若菜ペアなのか、というのが完全に今日わかって、 あんまりに想像してないくらい感情を揺さぶられて情景が流れてきて、奇跡みたいな瞬間に3回も立ち会えたんだ… という事実で帰り道も涙目でした。10年前から拝見したかった限り…
⚪︎カーテンコール
皆さんレポで絶対書かれてたけど、 本当に最後の公演のカテコが尊かったです…泣
基本2回のみで終了、深くお辞儀のみで、一生さんが正面のまま少し後ろに下がり、 レディーファーストで酒井さんを先に通して退場…と言う流れなのですが、
今夜はお二人の実質千秋楽だからか、『不倫』 の時は大サービスで4回も出てくださいました…お疲れのところありがとうございます…!
3回目でお辞儀のあと、二人で顔を見合わせてにっこりされていてまず尊い…となった後、まさかの4回目も出てきてくださり、また見合わせてもっとニッコニコされて、酒井さんから一生さんに腕を組むように抱き着いてぴょんぴょん跳ねてた(としか形容できない)んですよ〜〜〜アァァァァもうめっちゃくちゃ可愛らしかったし、さっきまであんな凄まじいお芝居をされている方々とは到底思えないギャップでさらにダメですよね…好き…🤦♀️
おそらくなんですが、酒井さんのTwitterを拝見していて、この朗読劇のトップバッターだったしすごく緊張されていたのではないかと思うので、それが解けたのもあると思うんです。
そういう切り替わってほっとされている瞬間を目の前で見ることができたので、 本編と併せてすごく印象に残ったし、本当に観に来られて良かったです…
あと一生さんと酒井さんの身長差がまことに良〜!って感じでした。一生さんすらっとしてる…王子様か…
⚪︎坂元作品について、まとめ
・『初恋』の三崎さんと『カルテット』の世吹すずめは、 互いが変奏のようだなと思っていて。
川での事故然り、「ありえたかもしれない悲劇は形にならなくても 、奥深くに残り続けるんだと思います」と話す三崎さんと、「 行けなかった旅行も思い出になる」と話すすずめちゃん。
恋は日常となって、 長めで急めな階段やエスカレーター降りる時に添えられる手になり 得るし、 封筒に切手を貼ったり住所を真っ直ぐ書いたりする時にちょっと頑張れるようになる。
生き方と考え方が根本的に似てると思うんです。
だから『初恋』が3作のなかでは一番好きだと思ってたし、 高橋一生×満島ひかりでやるべきでしょって思ってたんですけど(それはそれで実現してほしい)、そういうのは全部酒井さんに持っていかれて私の中で崩れました。
・『不倫』の田中さんのことを初めてちゃんと考えた気がする。
一年前に公演が決まっていた時にも本を読んでいたはずなのに、その時は何も思わなくて。今回改めて読み返して、公演に行って、ガラッと印象が変わりました。
字面で読んでいた時よりも、声によってあの空間に立ち上がっていたものがあまりに生々しく感じられて、とても他人事としてスルーできなくなりました。(やっぱりお二人の技量のおかげ)
夫に「ものを知らない人間は、ものを知ってる人間の奴隷になるだけ」と言われるの、酷すぎて今更ショックだったんですよね。3作の中で一番嫌な台詞かもしれない。
ここで言う奴隷というのは、私としては"主体性を持つ"ことを許されないことなのかなと解釈しました。だから自由がない。「知らない」から狭められた世界と選択肢の中に留められてしまう。
自分のために働くことも、誰を好きになるかも選べなくて、それが積み重なった絶望が彼女を殺したんだって。
つまり、自分で選べる自由は彼女のささやかな望みだったんですよね。
だから、終盤で待田さんに対して「今日のわたしはあなたのものでありたいと思っています。正しくもない。間違ってもない。でもそれは、やっぱり望んではいけないことだったんだなと思います。」と話したシーンが私はきっついなと思って。どうしてこんな言葉を彼女が言わなきゃいけなかったんだ?死ななきゃいけなかったんだ?って。
不倫は勿論よろしくはないのだけどそれとは別に、私も自分の生まれ育ち出会った環境や人次第でもしかしたら彼女になっていたかもしれないなって気持ちで、選べずに降りかかる不幸や不条理に対する憤りが劇中ずっと私の中を貫いてました。
・…というか、ここまで挙げた人物たちに限らず、坂元さんの世界に対する捉え方が一貫していて、様々な作品に散りばめられた台詞を思い返してます。
つまり、世界で起こり得ることは日本でも起こり得るし、あなたに起こったことはわたしに起こったことであるし、どこかの誰かの死はわたしたちの心の死である、と。それはきっと、本当の意味で世界を「知る」ことと同義となるのだと。
目を覚まさないゆっくりさんも、同い年の女の子が死んだ川の事故も、麻薬戦争で東急ストアのライムが品薄なことも、全部等しいものとして捉えて描いていたし、それらを等しく見做さず考えないことを「その人の前を通り過ぎるという暴力」と表現するところが、私はたまらなく好きだなと、改めて思いました。
・坂元さんの作品では、遠い世界の関係ない人というのは存在しないはずで、そう思ってたはずの人を近しく引き寄せて考えさせてくれるんですよね。
そのことの象徴が、今回『忘れえぬ』 が書き下ろされて3作に増えて、登場人物たちの年齢が上がるのと共に、そして作品毎に舞台が湖→川→海とまさに悲しみが流れ込んでいく様に、繋がっていくことに表されていたのではないか、と帰り道に思いついてまた道で泣きました。
凄い。もうどうしたらいいのかわからない。
・今回は朗読劇で、舞台装置も衣装もほぼなくて、立ち上がって動くこともできなくて、言葉のみで魅せていく中で、全然知らないある二人の人生の片鱗を90分だけ耳を傾けてるだけなのに、
湖の時計台までの道程が、
海老名SAに流れゆく車の列が、
渋谷に向かう東京の路地が、
全て情景が目の前に流れて、本当に二人が生きているのを見て聴いていると思えるんです。
あるかもしれない、あったかもしれない、人生の一つとして。
坂元さんも役者さんもだけど、あの空間を作っている全ての方がプロフェッショナルだなと脱帽する想いでした。
今回の朗読劇のことをわたしもお守りにして、支えにして、 生きていくと思います。