je joue

好きだってことを忘れるくらいの好き

『ツダマンの世界』

12/3(土)ソワレ 観劇

めっっっちゃネタバレしてます↓

 

 

 

 

・一言で言うと「酒!クスリ!セックス!」みたいな、何度も「おいテメェそれはどうなんだ(自主規制)」みたいなシーンのオンパレードだけど、出てくる人物達の関係性がほとんどぜんぶ母子・師弟・夫妻などの歪んだ共依存が散りばめられていてきわめて良…な話。


・とりあえず冒頭のよくわからん占い巫女みたいなの、途中まで阿部さんじゃんって気付かなかったし、ツダマンになってからもずっと思ってたけど、胡散臭さとか絶妙な間とか、「なんかこの人にしかできないよな」と思わせる何かがとにかく可笑しいんだよね

まあそれを言ったら猿時さんなんて出てきただけで笑えるんだけどw


・そもそもツダマンの生い立ちやばいよね、「そりゃ女にトラウマしか抱かないだろうね」って環境よね

実母の乳やわ歌からの不貞→女を抱く時おっぱいめっちゃ強く揉むので痛いとか

継母の物差し調教やら反省文やら結局彼女が狂ったエピソード→彼女に似た女に興奮する性癖+死ぬまで逃れられない文学への執着とか

結局男たち(勿論全員ではないと思いますが)が、根っからクッッッソすぎるしクソダセえんだけど、女たちに影響を受けていたり、(後述しますが)数さんや女中さんの顛末とか見てると女がつよつよで自分の力で生き抜いていたりする、そのコントラストがエグいんだよ…


・まさか松尾さんの舞台に出ると思ってなかったよ笠松さん…歌唱力を盛大に無駄遣いしていて、あのアホみたいな人たちの物語の中で素敵に歌われるので、より物語の滑稽さが増すという…


・クソボンボン役の間宮くん、あれは死人が出るんだろ〜な〜と思って観てた。生ける太宰治

崖みたいな、ギリシャ彫刻みたいな顔面で、クソ甘人生舐め腐った発言と死ぬ死ぬ詐欺のオンパレードなので、こいつ絶対賞取らないし死なないんだろうな〜と思ってたら最後死んでびっくりだよ

でも終盤、自分の賞欲しさに数さんを狂児へ売るところは文豪になり得そうな覚醒した感じがあって良かったし、それを黙認するツダマンも狂ってるし、ゾクゾクするとか言ってる狂児は普通に狂ってるし、押すなよ!って言われたら人間押すもんなんなんだよ!!!みんな狂ってんな!!!!!


・各自の好きな共依存があると思うのですが、私はツダマンと数さん夫妻が好きだったな…数さんはめちゃくちゃ愛に飢えてる人で、ツダマンが戦地から送ってきた手紙の行数を葉蔵と比べちゃうようなとこがありつつあのラストですよ…(羊さんめっちゃ格好良かったな…)

数さんに一生勝てない、それでも別れられないように仕立て上げられたツダマン、めちゃくちゃダサすぎて最高だったし、たぶん数さんこれからもめちゃくちゃ辛いし修羅の道すぎるんだけど、それでも嘘でも良いから愛してるとか好きだとか言われたい気持ちもわかるし、それで延びる命があるなら儲けモンでは???って気さえした

この2人はどーやっても、誰も知らない(文字通り行方くらますし)地獄を2人で行くしかないところが最高


・あとラストで忘れてはならないのがこの物語はあの女中さんが書いた話だということで、狂言回しが江口さんなのもめちゃくちゃ良いんだよな…そのオチは最後まで明かされないけど、すごく納得できて。

というのも、金のために搾取されていくと見せかけて、最後に全部掻っ攫っていく(清書を行うことで小説家としての素質を培い、ついでに子も身籠っている)の、何も無い彼女のような人こそ実は最強で、何も無いから後は得ていくしかないみたいな生き方しそうだなって思えるんですよ。そもそもヤバヤバな登場人物たちに都度ツッコミ入れてくの、江口さんのキレキレさにめちゃくちゃ合っているしネイティブ関西弁聞いてて気持ち良い。


・あと、江口さんが『ツダマン〜』の前に出てらした『夜の女たち』での役柄とかなり重なるイメージでした。同じ時代だし、生きるためにどうしようも無かった女たちを続けて演じられていたので。でも抱く印象は全然違う人物なので、そこがまた面白かった。

 


・女性陣の衣装がとにかく素敵だったのでそれだけでも観る価値があるよ

和装!!!知ってたけど良!!!!!(立場によって派手さとか柄とか違うけどそれもまた良く)

洋装も良!!!

…チャイナドレスとか聞いてない!!!!!(ほんとにびっくりしたし美の暴力だった)

 

・松尾さんの舞台いくつか観てきてあんまり合わないな〜と思うこともあるんだけど(おそらく合う合わないがめちゃくちゃあると思う)、今回凄く良かった…3時間強が一瞬の面白さ。

現代演劇で3時間超えの鑑賞に耐えられる舞台って、たぶん松尾さんとケラさんくらいじゃない???

人間の醜さを毒っ気たっぷりに描きつつ、最終的に「でも人間って憎めないですよね」と思わせる方だと改めて思った。今年は『ドライブインカリフォルニア』も観てそちらも凄くよかったので、良い一年だったり

 

sherry5honey7jouer.hatenablog.com

 


・昨年上演の松尾さんの『シブヤデアイマショウ』を思い出した。というのも、戦時下の芸術家というのも大きな時代のうねりに殺されかけるじゃないですか。ツダマンは戦地に送られるし、度々月田川賞の選考が無くなるなんて最たるところ。あとは左派演劇家たちの末路もわかりやすいですよね。

そういう"不要不急"の文化に対する仕打ち、時代や要因は違えど、演劇人として松尾さんが本気で怒ってるということがよく伝わる点で、『ツダマンの世界』は『シブヤデアイマショウ』と兄弟みたいな作品だと思います。実在の人物をモデルにしたフィクションと、時事ネタも織り交ぜた歌謡ショーという形は違えど、両方観られて良かったなとめちゃくちゃ思いました。

 

 

・そして、たぶん「書かずにはいられない」という点で、どこかツダマンとか葉蔵は松尾さんなんじゃなかろうか。